クラシックカメラ銘々伝
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テッシナの秘密 Tessina Automatic 35 Tessina 35 Tessina 35-L
キューバの機密を写し取ったTessina 35
テッシナというカメラは、スパイカメラとしてのイメージが強い。実際、1972年にアメリカ政界を揺るがせたウォーターゲート事件で、かの水道配管工が使用したカメラがテッシナだったし、それに先立つ1969年には、ヒッチコックがサスペンス映画「トパーズ」の中で、キューバの機密書類を写し取る役目をテッシナに与えている。

私はここで、テッシナというカメラの秘密を、暴いていこうと思う。

テッシナはスイスのConcavaという時計メーカーが作ったカメラだが、そこにはカメラ王国ドイツの血が流れている。テッシナの設計は、時計型カメラをいくつか設計していたルドルフ・シュタイネック(Rudolph Steineck)だが、基本デザインにはレチナのナーゲル(Nagel)が一枚噛んでいる。シャッターとフィルム送り機構は、ナーゲルとの共同設計なのだ。

Steineck ABC Retina 117
上の写真は二人の設計者が、テッシナ以前に設計したカメラである。もっとも、ナーゲルの方は有名なオーギュスト・ナーゲル(August Nagel)ではなく、親族の若いポール・ナーゲル(Paul Nagel)であったが。小型化の技術はシュタイネックが、使いやすさはナーゲルが担当したのであろうか。

テッシナが世界のスパイに愛された最大の理由は、そのサイズであった。手のひらにすっぽり収まってしまうカメラは、スパイにとっては最大の利点である。当時スパイ達に人気があった16mmフィルムを使う超小型カメラと比べると、その小ささが際だって見える。

テッシナのボディー寸法は68×52×28で、16mmのガミは116×56×30、ミノルタ16は104×40×25だから、驚異的な極小サイズである。

ミノルタ16とテッシナ

スパイに愛された第2の理由は、普通の35mmフィルムが使えることだ。世界中どこに行っても35mmフィルムなら手に入る。16mmやそのほかの特殊フィルムではそうはいかない。そんな特殊フィルムを買うことそれ自体が、スパイにとっては危険行為なのだ。35mmフィルムなら誰も怪しまない。今でも、この利点は生きている。全てのスパイカメラが、フィルムが手に入らないために、使い道がなくなってしまったのに、テッシナだけは35mmフィルムと共に、生き続けているのだ。

極小のボディーにもかかわらず、普通サイズの35mmフィルムを使うことを可能にしたのが、専用の小型フィルムカセットだ。プラスチック製のカセットは直径16mm、長さ41mmの超小型で、これに35mmフィルムを巻き取って使う。

実はこのカセットにはお手本があった。イタリアのDucatiのカセットがそっくりなのだ。Ducatiのカセットは金属製だが、スプールの孔の形が違うだけで、外形の形状、寸法は完全に一致する。Ducatiの発売は1946年だから、1960年発売のテッシナのカセットがDucatiの影響を受けたのは間違いない。テッシナのConcava社はスイスのルガーノ(Lugano)にあるが、この地方はスイスの最南端で、イタリアと国境を接している。まさにイタリア文化圏、イタリア語圏なのだ。実際、テッシナの生まれた町ルガーノから、Ducatiの故郷ミラノまでは、78キロ、車で1時間で行き着くことが出来る。

Ducatiのカセット Tessinaのカセット 左:Ducati   右:Tessina

超小型化に成功したもうひとつの秘密は、レンズの光を45度に傾けたミラーに反射させて、フィルム面に撮像する機構で、この工夫によってテッシナのボディーを極薄にすることが出来た。反面、フィルム面には左右逆像となるのであるが、これは裏焼すれば正像に戻る。

ミラーによる屈折

テッシナの魅力の第3は自動巻き上げである。ゼンマイによる自動巻き上げ機構は、時計王国のスイスならではの真骨頂であろう。一回の巻き上げで、5~8枚の連続撮影が可能である。これもスパイにとっては大きな魅力であったが、ジーッという巻き上げ音が意外に大きく、スパイ達を悩ませた。そこで、ナイロン製のゼンマイ機構を採用し、巻き上げ音を静かにした、スパイ専用仕様もあるという。

テッシナに欠点があるとすれば、それはファインダーであろう。一応2眼レフなのだが、小型化の宿命でファインダーとしては小さすぎるのだ。しかも左右逆像だから構図を決めにくい。そこで3種類の外付けファインダーが用意された。

左:マグニファイアー  中:ペンタプリズム  右:スポーツファインダー
8倍 6倍 等倍
8倍のマグニファイアーは近距離での精密なピント合わせに、ペンタプリズムは正像で見えるので、素早い構図決めに便利だが、いかにも無骨で小さなテッシナに似合わない。折りたたみ式のスポーツファインダーはもっとも軽快で、超小型のテッシナにぴったりフィットする。

テッシナにはボディーカラーのバリエーションが4種ある。黒、クローム、ゴールド、赤である。クロームが一番多く、次いで黒が多い。ゴールドと赤はほとんど市場に出てこない。

blac
chrome gold red

テッシナは1960年から1976年まで生産されたが、その間、テッシナオートマチック35、テッシナ35、テッシナ35-Lと進化した。初期のモデルはautomatic35mmと刻印されている。自動巻き上げを主張しているのだろう。しかしこのタイプは、絞りをダイヤル側面のポイントに合わせるようになっていて、非常に見にくい。次のテッシナ35からは、ダイヤルに開いたスリットから数値を読み取るように改良されて、だいぶ見やすくなった。

テッシナ35-Lは露出計に絞りを連動させて、シャッターをセットする機構を採用した。さらに進化して便利になった。この露出計は、旧型に付けても絞りリングに連動する。

Tessina automatic 35       Tessina 35

オートマチックの絞り テッシナ35の絞り テッシナ35-Lの露出計

テッシナで撮影すると、35mmフィルム上に14×21mmの画像を写す。ハーフ判(18×24)よりひとまわり小さいが、その画質はかなりレベルが高い。
テッシナの画面
(クリックすると大きくなります。)
浅草にて 東京スカイツリー
ミラーに反射させるからだろうか、逆光は苦手である。かなりのカブリを覚悟しなければならない。それに、撮影前にミラーのブラッシングも欠かせない。ミラーにゴミがあると、もろに結果に出てしまう。

紅葉 猿回し
25mmのテッシノンレンズは、被写界深度が深いので、十分に絞ればほとんどパンフォーカスでスナップ出来る。また30cmまでの近接撮影が出来るのも、スパイ向きなのかもしれない。距離リングの目盛りは、30cmから4Mまでで、あとは無限遠だ。

喫茶店にて ネコと果物
スローシャッターとファインダーが怪しかったので、ウメハラカメラで調整してもらった。今度は近距離も、室内での撮影もばっちりである。


テッシナの使い方
フィルムローダー
テッシナのアクセサリーのひとつにフィルムローダーがある。無くてもすむが、あれば大変便利なツールである。普通の35mmフィルムを日中明るいところで、簡単にテッシナ専用のマガジンに詰め替えることが出来る。テッシナのマガジンはテッシナだけでなく、コニレットやベビーローライなどにも流用出来るから、このツールの利用価値は大きい。
1.専用マガジンのスプールに35mmフィルムの先端をセットし、マガジンに入れる。 2.フィルムカッターの刃先をフィルムガイドと平行にし、マガジンにセットしたフィルムをローダーに入れる。 3.カッターの刃先をガイド内に入れ、蓋を閉め、ダイヤルを回してマガジンに巻き取る。いっぱいに巻いたら、カッターを引っ張ってフィルムをカットする。

撮影の実際
1. 巻き上げ側のノブはゼンマイ用である。ノブを引き上げて、ゼンマイを巻いてから撮影すること、いっぱい巻いておくと5~8枚は連続して撮映出来る。巻き上げないとシャッターが切れない。
2. レンズのスライドキャップを完全に開けること。少しでもかかっているとシャッターが切れない。
3. シャッターを切る時に指が巻き戻しノブにかからないように注意すること。シャッター が切れた直後に、ゼンマイで巻き上げられるので、巻き戻しノブが回転する。
4. 絞りはカウンターの外側ダイヤルを回して、カウンター外周リングの左右のスリットに表示する。2.8、4、8、16は右のスリットに、5.6、11は左のスリットに絞り値が表示される。
5. 撮影開始前に、カウンターリング中央の小さなポッチを爪で挟んで時計方向に回し、0の右の赤点を赤印に合わせる。
6. 被写界深度リング。25mmレンズは被写界深度が非常に深い。絞りを8に絞って、被写界深度リングの∞を、絞り8のラインに合わせると、1.2Mから無限遠までピントが合う。
7. スポーツファインダーの下の小さなレバーを軽く押すと、ファインダーが立ち上がる。折りたたみは、両側の黒い薄板、接眼部、対物部の順にたたむ。
8. 巻き戻しは、Rレバーを起こし、巻き戻しノブを少し引き上げて巻き戻す。引き上げすぎると空回りするので注意。

マガジンにいっぱいに詰めて撮ったら、29枚撮れた。


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