クラシックカメラの話題集

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VPK デジタル化作戦    VPKの巻  ピコレッテの巻 パーレットの巻

VPKの巻  Kodak単玉  Kodak F7.7  Roussel Stylor  Rapid Rectilinear    
Vest Pocket Kodak+Meniscus Acromatic
大正時代のことである。ベス単フード外しというのが流行ったことがあった。ベス単はアメリカのコダック社のベストセラーベスト ポケット コダックの愛称である。ポケットに入る超薄型機で、レンズが1群2枚構成だったので、日本ではもっぱらベス単の愛称で親しまれた。その後、2群4枚玉の高級モデルも出るが、全て総称してベス単と言う人もいる。

さて、フード外しの話である。コダックは周辺収差を避けるために、レンズの手前にフードと一体の穴あきの遮光板を入れた。要は絞りを絞った状態で販売していたのだ。日本では何故か、誰が始めたか、このフードを外してレンズを解放にし、ほんのりとしたソフトフォーカス気味の写真を楽しんだのだ。これがベス単フード外しである。

フード付き フード外し

私がここで紹介するのは、フード外しならぬ裏蓋外しの邪道である。世の中には面白い発想をする人がいるもので、私の仲間に、「昔の乾板カメラにロールフィルムを入れて撮るのだから、フィルムカメラにデジタル板を入れて撮れないかなあ。」という人がいた。これは面白い発想だと、ネットでいろいろ探していたら、やっぱり同じようなことを考えて、実際に試している人がいる。「ベスト判トリオ重連ページ」というページを見つけた。ただ、ボディーキャップに穴を開けるのに専用の工具が要るし、古希の老人には少し敷居が高いと感じた。

超簡単なVPKアダプターを紹介しよう。使うのはゴム製の吸盤オープナーである。各種サイズがセットになって販売されている。これに今流行のレンズ交換式ミラーレスカメラ用のアダプターを組み合わせれば、工具無しでいとも簡単にVPKのデジタル化が完成する。

VPKのボディー裏 少し回すと外れる
VPKの裏にはメンテナンス用だろうか丸い孔があり、それを赤窓付の円盤が塞いでいる。この蓋は少し固いが、時計と逆方向に回すと簡単に外れる。穴の直径は25mmだ。この孔を利用するのだ。吸盤オープナーの内一番フィットするものを選んで、適当なマウントにマスキングテープで固定する。幸いマイクロフォーサーズのパナソニックが出た時に、面白がって各種アダプターを揃えたので、いろいろと当てはめてみる。ここではCマウント用のアダプターを利用した。
ゴム製の吸盤オープナー マウントアダプターに固定
VPK+Lumix G1
VPKのデジタル化が見事に完成した。現代に蘇った伝説のベス単フード外しを、実験してみよう。左がフード付き、右がフード外しである。

フード付き フード外し
ネコと目覚ま ネコと目覚まし
フードを外すとかなりのソフトフォーカスになる。球面収差の影響なのだろう。コダックはそれを嫌って、絞りストッパーやらフードを付けて、レンズの中心部だけを使うようにしていたのだが、なぜか日本ではこのはんなりとしたソフトフォーカスに魅せられた人が多かったのである。

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芝離宮にて 芝離宮にて
ベス単の時代はカラーフィルムは無かった。ベス単フード外しもそんな時代の表現法なのだろう。色を消してモノクロームにすると、まるで墨絵ぼかしのような魅力的な画像に見えてくる。


Vest Pocket Autographic Kodak Special+Kodak Anastigmat F7.7
次に使ったのは、鉄筆でフィルムにデータを書き込める、オートグラフィックタイプである。1915年(大正4年)以降、コダックはほとんどのVPKを、オートグラフィック仕様にしてしまった。この頃になると、レンズも単玉ではなく、4枚構成の複玉アナスチグマットの高級版が出てくる。

今回はCマウントアダプターとM42アダプターを合体させ、パナソニックのミラーレスカメラを取り付けてみた。Cマウントアダプターのレンズ側は、少し落とし込むような構造になっていて、その径がVPKの裏蓋の孔にぴったりなのだ。

VPK+Pnasonic Lumix G1

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レトロな風景 半鐘
まずは無限遠からだ。上野や浅草でレトロな風景を狙ってみた。大丈夫だ。余裕をもって無限遠が出ている。大成功である。単玉ではなく、収差補正をしたアナスチグマットレンズは、さすがにクリアーで、美しい写真が撮れた。

自転車 ハイ! ピース
意外なことにこの組み合わせは、VPKが苦手だったスナップが得意だ。なにしろ露出の失敗がないのが嬉しい。VPKの見にくいファインダーから、パナソニックの一眼ファインダーになっただけでも、格段に写真の腕は向上する。

子供達 ヤギさんとお話
上野動物園は子供達の天国だ。このVPKはカメラには見えないらしい。おとなも子供も、まったく意識しないので、自然の表情を撮ることが出来た。

カンザクラ サザンカ
この組み合わせの得意は、近接撮影である。蛇腹を生かしてかなり近くまで寄れる。まるでベローズをつけたように、超近接撮影が手軽に楽しめる。

近接撮影 超近接撮影
室内で蛇腹効果を試してみた。小さな猫とフィルムパトローネを写してみる。最大限近寄ると、等倍以上の画像が得られる。これはかなり使える。

眠り猫 すまし猫
本物の猫もご覧の通り。この組み合わせは実に楽しい。パナソニックのMFアシスト機構が、強力な助っ人になる。アシストをONにしながら、蛇腹を手で前後させるのだが、慣れると実に小気味よくピント合わせが出来るのだ。


Vest Pocket Kodak Special+Stylor 90mm F6.8 H.Roussel Paris
不思議なカメラが我が家に来た。単玉ではない、高級なVPKスペシャルなのだが、レンズがフランスのH・ルーセルのスティロー90mmなのだ。ヨーロッパ向けにテッサーやクックが付いたVPKがあることは知っていたが、フランスのレンズ付きは珍しい。VPKに関するいくつかの文献を当たってみたが、このレンズ付きの記述は見つからなかった。

アダプターをライカMマウント用に替えてみた。この方がVPKと一体感が出て、カッコイイ。横位置でドッキングさせた方が、ピント調節がやりやすい。

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小岩菖蒲園から 冬のカラス
古いコーティングのせいだろうか、薄く霞がかかったような写りだ。マウントが薄くなった分、ピント合わせの蛇腹の動きが大きくなった。慣れるまで、少しぎくしゃくする。

自転車の子供 大き過ぎるジャンパー
色は暖色系に転ぶようだ。シャープとはいえないが、雰囲気のある描写だ。

ナズナ ツクシ
近接撮影は、この組み合わせでもお得意のようだ。江戸川の河原で、小さな春を見つけた。


Vest Pocket Kodak Special+Rapid Rectilinear
とてもきれいなVPKが手に入った。シャッター止めのビスが4本になっているから、最終期のモデルだろう。シリアルナンバーは1641613である。英国ダルメーヤー社のラピッド・レクチリニア、通称R・Rと呼ばれる有名なレンズが付いている。作りも初期のVPKに比べて、ずいぶんとしっかりした作りになっている。


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和洋女子大 芽吹き
ピントは非常に合わせにくいが、撮れる写真は柔らかで美しい。使いこなしは難しそうだが、楽しめるレンズだと思う。

早春 土筆
お得意の接写でこのレンズは本領を発揮する。爽やかで優しい描写という印象だ。とても質の良いレンズだと感じた。



ピコレッテの巻

Piccolette545/12+Nettar 75mm F6.3
VPKの大ヒットを目にして、ドイツと日本が追随する。ドイツでは1919年に、コンテッサ・ネッテルがピコレッテ201(Piccolette201)を発売する。日本ではピコレットと呼ぶのが一般的だが、Leicaをライカと読み、Voigtlanderをフォクトレンダーと読むなら、Piccoletteもドイツ風に読む方がいいと思って、敢えてピコレッテと呼ぶことにする。

コンテッサ・ネッテル社は、1926年にイカやエルネマンと共にツァイス・イコン設立に参加する。当時、世界最大のカメラメーカーの誕生であった。後にライカの強力なライバル、コンタックスを生み出す会社である。私のもとへやってきたピコレッテには、Zeiss Ikonのマークが刻印されている。1929年から1932年まで3年だけ作られたピコレッテ545/12である。レンズはネッター75mmF6.3、シャッターはT、B、25、50、100で、DERVALという表記が読める。

VPKと同じように、丸い裏蓋が外れる。しかし、VPKより口径がわずかに小さい。Cマウントアダプターが入らない。ゴム製の吸盤オープナーは密着性も良い。これを使うことにした。

VPKよりわずかに小さい ゴム製の吸盤オープナー アダプターに付ける
Piccolette+Panasonic Lumix G1
完成したデジタルピコレッテを持って、近くの中山法華経寺へ向かった。桜が5分咲きで、のどかな春が広がっていた。

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塔頭の山門 中山大仏
まずは無限遠が出るかどうかだ。まちがいなく無限遠はOKだ。色が若干暖色系に転ぶが、むしろレトロな味が出て、好ましい雰囲気だ。

春は睡いよ 何やってるの?
35mm換算で140mm近い望遠となる。子供達の自然な表情が狙える。

オトメ椿 スズランスイセン
超近接撮影はお得意だ。サザンカは日本画風に、小さな小さなスズランスイセンも、パナソニックのMFアシストの威力もあって、ばっちりと可憐な姿を捉えた。

4分咲きの桜 超近接撮影
そして桜である。今年(2012年)はことのほか開花が遅かった。今日(4月5日)になっても、まだ4分咲きである。それでも待ちかねた花見客が、花を求めて集まってくる。のどかで平和な日本の春である。ピコレッテはVPKに比べると、かなりシャープだが、まだコーティングされていないので直射日光に弱く、盛大にハレーションを起こす。フィルムの場合は要注意だ。


パーレットの巻
 Pearlette+単玉F8
VPK、ピコレットにわずかに遅れて、1925年ついに日本でも小西六からパーレットが発売される。国産初の大量生産カメラである。最初はレンズはアメリカのウォーレンサックから供給を受けた。

1932年(昭和7年)になって初めてレンズも国産化された。写真のパーレットはその純国産機である。価格は単玉が17円。ベス単より1円安かった。

 Pearlette+Sony NEX-7
ソニーからAPS−Cサイズのセンサーを搭載したNEX−7が発売された。

パーレットはVPKやピコレッテと同じように、裏蓋に丸い穴が開いている。これに例のゴム製リムーバーを付けて、適当なNEX用のアダプターをつなげば、パーレットのデジタル化が完成する。

 
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小岩菖蒲園 花菖蒲
無限遠はきちんとシャープに撮れる。多少フレアー気味だが単玉でこれだけの描写は、たいしたもんだ。近接撮影はこの組み合わせでもバッチリだ。
 
幼児 遠足
カメラを向けてもカメラだと思ってくれない。だから自然な表情が撮れる。

 
 ヘラオオバコ  紫陽花
近接撮影は大のお得意。ライカにベローズを付けたって、ここまでシャープに撮れるだろうか。なんといっても単玉なんだから。80年前の国産技術に万歳である。
 

クラシックカメラの物語 NEX7とオールドレンズ  マイクロフォーサーズ編 


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